知の巨人の一冊。『知の旅は終わらない』📚by 立花隆
『知の旅は終わらない』 立花隆
圧倒的な筆力、恐竜的な取材力、そして膨大な知識量。立花隆が日本を代表する知識人であることに異を唱える人はそういないであろう。ノンフィクションの面白さ、文系理系問わずのバランスの取れた教養の肝要さ、科学では解明できない人知を超えた世界の深淵さ、宇宙の神秘、学生運動、政治と情愛、旅、仕事観、思い返してみると立花隆の著作から学んできたことはあまりにも多い。
著者が今まで読んできた3万冊と執筆した100冊の著作を通して考えてきたことをコンパクトに窺い知ることができる。本書はその後の著者の性格を決定づける強烈な北京引き揚げ体験から始まる。
東大の仏文科を卒業してから文藝春秋新社に入社するも、2年で退社。その後、東大の文学部哲学科に学士入学を果たす。筆一本で田中角栄を退陣に追い込み、社会に大きな衝撃を与えた。まさに「知の巨人」という形容がぴったり当てはまるように、立花が扱うテーマはジャンルを問わず、政治、哲学、音楽、宗教、科学、美術、考古学と多岐に渡った。
そういえば、新宿ゴールデン街で一時期バーを経営していたこともあるという。その名も「ガルガンチュア立花」。唯一のルールは「Fay ce que voudra” (Fais ce que tu voudras 汝の思うがままになせ)」。粋な人でもある。
最後に大事な情報をもう1つ。『耳をすませば』の主人公、月島雫の父親役の声は立花隆本人である。
映画も素敵ですが、立花隆の声も渋くて、とても好きです。皆さんは覚えていらっしゃいますか?
“The travel of knowledge never stops” by Takashi Tachibana
Takashi Tachibana is one of the most renowned journalists and greatest intellectuals of our time. With his pen only, he forced the then prime minister Kakuei Tanaka to resign. This book is sort of his memoire based on his intellectual journey through 30,000 books he read and 100 books he wrote.
This book starts from his vivid memory of his childhood when his family was struggling to leave Beijing for Japan. Looking back on his life, Tachibana thinks that his deracinated and nomadic life can find its origin in his early childhood. After graduating from the French literature department of Tokyo University, he entered a publishing company, which he was going to quit after 2 years.
Subsequently, he reentered the department of philosophy of Tokyo University. While in university, he started writing to make ends meet as a freelance journalist. Since then, he has been writing on a wide range of topics and disciplines such as literature, philosophy, religion, science, archeology, music, and fine arts.
I have learned tremendously from many of his books. Above all, he taught me an indispensable quality of human being, which is curiosity. He has had keen interests in all the matters as far as human beings go.
He once ran a bar called “Gargantua” in the famous Shinjuku Golden Gai. There was only one rule there. “Fay ce que voudra” (Do whatever you want).
本書の中から感銘を受けた文章をいくつか引用します。
「剃刀で切って、捨てずに残したもの。それはこのデラシネ体験であったり、知的なものもふくめたノマド=漂流者的な生き方であったり、母親譲りのキリスト教という西欧思想の根っこみたいな部分であることは確かなことのようです」
「それぞれの人がいろいろな場所で、いろいろな知識を吸収して、自らの世界観を形づくっていく。そして次に、どこかの段階で、一度作り上げたものを壊すという過程がはじまる。異なった文化体系に触れるということは、その重要な契機になるんです。ある知識体系が、その人の精神構造の奥深くに入っていればいるほど、それを壊すのは難しいしエネルギーもいるんだれど、そういう過程を経なければ、自分自身の視点は生まれてこないし、底の浅いものになってしまう」
「語りうることはすべて明晰に語りうるということ、それでも語り得ないことが厳然としてあり、語りえないものの前では沈黙しなければならない」
「質問事項よりも大事なことがあって、それは質問する時の具体的な表現(言葉づかいと心づかい)です。そして相手に、この人ならば自分が何かを言ったときにそれをわかってくれるのではないかと思わせるような、質問者自身の人間性の表出も大切です」
「武満の音楽の特質の一つに、音をできるだけ自然の状態に戻してやろうという考えがあります。音を徹底的に人間が管理し構成していくことによって、一つの人工的な世界を構築していくというのが、西洋音楽の基本的な考えであるのに対して、武満は、音を縛るのをやめ、最もオリジナルな原初の状態に戻して自由に生かしてやることが音楽することであるという考えなんですね」
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