理想の文章とは何かを知る一冊。『無趣味のすすめ』📚by 村上龍
『無趣味のすすめ』📚by 村上龍
村上龍氏のエッセイ集。
『コインロッカーベイビーズ』の「ダチュラ」に衝撃を受けて以来、全ての作品を読んできた。村上龍の文章はとにかく疾走感に満ち溢れている。そして、恐ろしく文章がうまい。このエッセイの中には、一度読んだらなかなか忘れられない文章がいくつかある。2つ紹介する。
1. 「好き」という言葉について。
「わたしは小説を書くのが好きではない。じゃあ嫌いなのかというとそうでもない。おそらくそれがなくては生きていけないくらい重要で大切なものだが、非常な集中を要するのでとても好きとは言えないのだ。わたしにとって小説を書くことは好きという言葉の枠外にある」
好きという言葉がいかに曖昧であるかを示している。曖昧さ、馴れ合い、洗練を拒否した作家ならではの一文である。
2. ビジネスにおける文章について
「うまい文章、華麗な文章、品のある文章、そんなものはない。正確で簡潔な文章という理想があるだけである」
まさに村上龍の文章そのものを形容しているかのような文章である。この文章に触れた時、尊敬する通訳者の先生の言葉を思い出した。圧倒的な英語力、そして恐ろしいほど正確に訳出された日本語。アメリカ大使館の通訳を30年以上も務められた方である。「外国語で文体とか流麗な文章とか考える必要はない。正確に過不足なく伝えること。これに尽きる」達人の至言である。
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