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Ikuya Takahashi

エクソフォニー作家による一冊。『言葉と歩く日記』📚by 多和田葉子

『言葉と歩く日記』多和田葉子 多和田葉子、初めて彼女の著作を読んだ。面白い。著者が色々なところに旅をし、日本語、ドイツ語を行ったり来たりしながら、様々な思考を綴る日記。早稲田露文科卒業後、22歳の時に渡独。以来ドイツを拠点とし、ドイツ語と日本語で作品を著してきた。全米図書賞、クライスト賞、芥川賞、谷崎賞、読売文学賞、と国内外問わず、数々の名だたる文学賞を総なめにする。母国語ではなく、第二言語で作品を書く作家のことをエクソフォニー作家というらしい。Exophonyという単語をこの著作を通じて初めて知った。文学者で言うと、ナボコフ、コンラッド、アゴタ・クリストフ、などが思い浮かぶが、どの作家も個性的で、言語表現が豊穣である。 いくつか考えさせられる文章があったので、引用しながら思ったところを展開したい。 「言葉には『言葉通りの意味』という絶対安全な足場はないということ、それでも言葉には無限の可能性があるのだということを若い世代にもっと伝えたい。子供がテストで百点をとってきたら、親が、『次回のテストで点数があがる可能性がなくなって悲しいね』と言ってやる。そこでもしニヤッと笑えれば、子供は言語は文字通りの意味を伝達するためにあるのではないということを少し理解できたのではないか。」 まさに言葉を「異化」することが重要なのであろう。これは裏返せば、同じ言葉でも人によって解釈が多様であるということでもある。言葉の可能性と怖さを同時に考えさせられる。 「グローバル化した社会では、ソウルもベルリンも同じなのか。ドイツの言葉を勉強して文化の中に入り込めば、有意義な差異をたくさん見出すことができるというのがわたしの答えだ。差異はないよりあった方がいい。旅行者である限り、国が変わっても同じエビアンの水を飲み続けるのかもしれないが、例えばドイツ人の家族と暮らすことになったら、水だけに関しても大きな文化差を感じることになるだろう。」 そう!まさに同意である。海外の生活からしばらく断絶させられているので、この思いから少し遠ざかっていた自分がいた。旅行者であっても差異を感じることはできるであろう。その国、その文化の中で暮らすことになれば、尚更違いは山ほどあろう。異文化の環境の中で暮らす素晴らしさはまさにその差異の中にある。旅行ですら禁じられてしまっている今、その貴重さについて、改めて考えさせられる。 「単語は自分の心が外に溢れ出したものだと考えるのは思い込みで、単語はわたしの生まれる前から存在し、独自の歴史をもち、わたしが死んでも全く悲しまずに、存在し続けるだろう。」 なるほど。単語、言葉は人間一個人よりもはるか長い歴史を有する。自分が何か新しいものを生み出していると思うのは一種の驕りなのであろう。言葉に対して謙虚であれ。 「ハイデガッガーがトラークル論の中で、この詩人が『Im Dunkel(闇の中で)』という詩の中で『schweigen(黙る)』を他動詞として使っていることに着目していることを思い出した。『黙る』は普通、目的語をとらない。黙るときは対象がないと決めつけていいものだろうか。文法に思考を譲り渡してはいけない。『黙る』時、そして『死ぬ』時こそ、直接目的語を捜した方がいいような気がする。」 ドイツ語の「denken(考える)」という動詞は必ずしも目的語を必要としないらしい。考えることそのものに意味があるのであろう。そして黙る時には、何を黙るのか、何を失うのか、考えるのも大事であろう。「文法に思考を譲り渡してはいけない」、痺れる表現だ。 大江健三郎は常に日本語、英語、フランス語の間を振動する(oscillate)することで、日本語を豊かにしてきたという。ある文学作品を英語と日本語で読むことによって、解釈が重層的になり、一言語だけでは見えていなかった意味が立ち現れ、より正確な理解へと繋がることが多々ある。 多和田葉子はドイツ語と日本語をoscillateすることで、独特の世界と言語を紡いできた。稀有な作家である。これまで彼女の著作を読んでこなかったのが悔やまれる。彼女の著作を通じてドイツ語への興味も掻き立てられた。以前からあともう一言語だけ、しっかり勉強したいと決めていたのがドイツ語だ。久しぶりに、碩学、関口存男の文法書を紐解こう。

 

Yoko Tawada “Kotoba to aruku nikki”


Yoko Tawada is one of the most internationally acclaimed contemporary Japanese authors. She was awarded with numerous renowned literary awards including the National Book Awards, the Akutagawa Prize and the Tanizaki Prize. Some people say she’s closer to the Nobel Prize in literature than Murakami is. She is considered as an “exophony” writer. I hadn’t known the word until I read this book of Tawada. Exophony writers craft their work in their second language. Nabokov, Conrad, and Agota Christoph fall under this category.


This book is a “diary” written when she travels to many places. She ponders on the language, life, and identity in two languages, German and Japanese. It is surprising that someone like her who starts studying a foreign language after they have become an adult attain so high a language proficiency level that they can write poetry in their second language. By the way, her major at university was Russian literature.


Some of the sentences in this book were thought-provoking.


“I want to convey the potential of the language to the younger generation. If your child gets home proudly with their exam results of full marks, their parents could say “It’s a pity that there is no space to improve any more”. Then, if the child grins to hear that, he or she might understand that language is not there so that it should always be understood as it is said”

I totally agree with this notion. Words have different meanings depending on who uses them and so do interpretations. Languages can be a dagger as well as a healer. We should remember that.


“We shouldn’t think that we are the owners of words and can use them at our disposal to describe how we feel. The words had existed well before I was born and they have their distinctive history. They will never feel sad even if I die and will continue to exist”

Yes, we should be more humble when we use words.


Oe kenzaburo says he has always oscillated among 3 languages, English, French, and Japanese, which makes his style so unique and enticing. So is Tawada’s.


Unfortunately, this diary is not available in English yet, but many of her works are. Have you read any?



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