『アメリカひじき』野坂昭如
作家、放送作家、作詞家、シャンソン歌手、俳優、政治家、多くの顔を持つ。野坂は、1930年に生まれ、終戦を迎えた時は15歳であった。自身を「焼跡闇市派」と呼ぶ。小説、随筆共に多作の作家であるが、最も有名な作品と言えば『火垂るの墓』であろう。今回はもう一つの代表作『アメリカひじき』を授業で扱った。野坂はこの両作品で1967年に直木賞を受賞している。
主人公の俊夫は、妻がハワイで仲良くなったというアメリカ人のヒギンズ夫妻が日本に来るというので、ホストとしてもてなす羽目になる。銀座のクラブに繰り出し、深夜遅くまで飲み歩き、女をあてがう日々が続く。文字通り、酒とセックスでアメリカ人を歓待する。
この小説を通して、野坂の世代にとってのアメリカが見える。「不治の病のめりけんアレルギー」という文言が印象的だ。どれだけ克服したように見えても、体は正直で反応してしまう。1945年の8月15日の玉音放送を境に、日本人の価値観は180度ひっくり返る。鬼畜米英は憧れの的となり、英語は敵性語から希望の言語へ、天皇は人間となった。この小説ではアメリカに対する三者三様の思いが描かれる。若い人たちにとってアメリカとは憧れであり、箔をつけることができる場所。妻京子にとっては文明国で、新しい文化を教えてくれる国。俊夫にとっては、アメリカは圧倒的な力であり、ひれ伏す存在。小さい時に出会った「スクイーズと差し出された分厚い掌」、「もり上がったヒップ」、「あまりにでかすぎる兵士の体格」のアメリカは彼を動けなくする。
俊夫は、ヒギンズをセックスや酒でもてなすのはなぜかを自問自答する。セックスであれ、酒であれ、アメリカをギャフンと言わせたい、平伏させたい、その想いが根底にあるのだと気づく。終戦から22年を経た今も戦いは続く。
「俺がサービスしとるのは、ヒギンズをなにかの方法でまいらせたい、酔いつぶすでもええ、女に惚れさせるでもええ、日本のなにかに、あのにたにた笑ってくそ落ち着きにおちついとるヒギンズを、熱中させ、屈服させたい」
アメリカとは何か、日本とは何か、戦争とは何かを死ぬまで問い続けた作家であった。
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