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Ikuya Takahashi

『猫を棄てる』村上春樹


村上春樹が父親について語ったエッセイ。なぜか今までずっと読んでこなかった。親に対して子供は様々な思いを持っているだろう。日本社会においては息子と父親の関係というのはまた少し独特であるかもしれない。村上春樹が描くテーマの1つと言えば、『ねじまき鳥クロニクル』でも描かれている通り、日中戦争であり、ノモンハン事件である。そこには常に父親の影が見える。戦争に従軍した過去を持つ父。


「子供の頃、一度彼に尋ねたことがあった。誰のためにお経を唱えているのかと。彼は言った。前の戦争で死んでいった人たちのためだと。そこで亡くなった仲間の兵隊や、当時は敵であった中国の人のためだと。」

村上春樹はそれ以上父親に聞くことはしなかった、いやそれ以上聞けなかった。僕にも同じような経験がある。尊敬する祖父は餃子が作るのがうまかった。中国語で流暢に数を数えることもできた。畑にいた時に焼夷弾が土の下に埋もれていることを教えてくれた。それ以上の話は聞くことはできなかった。一度聞こうと試みたことがあるが、祖父の顔の表情がそれ以上の質問を許さなかった。聞きたくても聞けないことがある。もう永遠に聞くことはできない。


このエッセイは、偶然が重なりあって私たちがいるという当たり前の事実に気づかせてくれる。

「我々は結局とのころ、偶然がたまたま生んだひとつの事実を、唯一無二の事実としてみなして生きているだけのことなのではあるまいか。」

父親と猫を棄てるという共有体験。猫を棄てたあと家に帰ってみると、その猫がすでに戻ってきていたという不思議な体験。そのささやかな出来事を共有しているということの大事さ。そのことが人間を作っていく。


「そのときの海岸の海鳴りの音を、松の防風林を吹き抜ける風の香りを、僕は今でもはっきり思い出せる。そんなひとつひとつのささやかなものごとの限りない集積が、僕という人間をこれまでにかたち作ってきたのだ。」

短い随筆ながら、親の存在とは何か、人間存在とは何か、「引き継ぐ」とは何か、を考えさせられた。


久しぶりに村上春樹の文章を読みましたが、やはり素晴らしいです。まだ未読の方は是非!

 

“Abandoning a Cat” by Haruki Murakami


This is an essay Murakami wrote about his father. He rarely talks about his parents. Still, his father’s presence could be strongly felt especially in the “The Wind-Up Bird Chronicle”. His father participated in WWII and that experience had profound effects on his life. This essay has made me think about the relationship between father and son, the importance of sharing episodes with someone, and what it means to “inherit”.


As described in the title, Murakami and his father shared an unforgettable episode where they together abandoned a cat when he was small. Still, by the time they returned their house, the cat had already been there, which took them by surprise. Sharing some episodes like this, however small or casual they might be, makes us who we are and sustains us. While reading this specific part, many memories and episodes with people who are already gone came up in my mind.


I hadn’t read Murakami’s essay for a while, and realized again that I liked his individualistic voice very much.

I’m offering 3 classes on Murakami for America in January 2023, dealing with “Barn Burning”, “Toni Takitani”, and “Cream”, looking at the evolution of his works over the last 30 years. If you’re interested, please join our discussion!

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