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Ikuya Takahashi

『文学青年育成ガイド』 原文編集:朱 宥勲 翻訳:謝惠貞、八木はるな

台湾に来ることがあれば、そして台南にまで足を伸ばす機会があれば、是非訪れて欲しい場所がある。それは国立台湾文学館である。日本統治時代の1908年に設立された立派な建物で、その常設展が素晴らしい。台湾文学の歴史を一通り辿れるようになっている。その展示パネルの日本語訳が素晴らしく、思わずその書籍を売店で買い求めた。訳者の一人は文藻大学で副教授を務められている謝惠貞先生。プロフィールを拝見すると、横光利一に関する大きな本(『横光利一と台湾—東アジアにおける新感覚派(モダニズム)の誕生』 ひつじ書房)を書かれており、日本文学研究者であり、同時に日本文学と台湾文学の横断的な研究もされている。


謝先生と台湾・高雄のカフェにて。

先週縁あって、高雄にて謝先生とコーヒーをご一緒する機会を得た。3時間があっという間に経ってしまった。とても贅沢な時間だった。外国の方で日本文学のことをあれほど詳しく知っている方にお会いしたのは初めてだったので、とても新鮮だった。村上春樹(謝先生は『大人の村上検定』にも関わっている)の『カンガルー日和』が日本文学に傾倒するきっかけとなったこと、自分の生き方が横光利一的な生き方に重なること、温又柔、李琴峰、東山彰良などの台湾と関係のある作家のエピソードまで、とても興味深いお話をしていただいた。また、個人的に印象に残っているのは、多和田葉子や村上龍の通訳を務められた時のエピソード。 村上龍は新宿にある定宿で執筆することが知られている。急遽インタビューのアポイントメントの時間を変更してくれないかと、リクエストがあったらしい。再度指定された時間は17:42。部屋に行くと、村上龍は窓の外を指差した。そこに見えたのは夕陽と富士山であった。外国から来た人たちへの村上龍ならではの心尽くしである。さすが村上龍。作品を全部読んでいる村上龍ファンの僕はこの話に完全にノックアウトされてしまった。興奮のあまり僕が放った言葉は、「さすが、ベース(佐世保の米軍基地)をベース(土台)にしている作家、村上龍!」。その後、謝先生の的確な指摘。先ほどの粋な計らいと今のベースの〜という件の関係はなんでしょうか?全く関係ありませんでした。。 笑 

『台湾書旅』

同年代である台湾人の謝さんと日本文学に関して熱く語ることができて、本当に素敵な時間だった。『台湾書旅』(文学、旅行、日台関係と様々な切り口から台湾を知ることのできるブックガイドで、台湾、日本の紀伊國屋で何と無料!で手に入ります)の中で謝さんはこう述べている。「台湾色の眼鏡で日本という国の歴史や文化に目を向ける。それはきっと、新しい発見につながるに違いない」 まさに。この2年間は台湾色の眼鏡で日本の歴史や文化に目を向けた貴重な時間であったし、高雄での咖啡時光はその中でもハイライトとなった。

『文学青年育成ガイド』


『文学青年育成ガイド』。「文学青年」という翻訳には深い意味があるようで、どうやら「村上春樹に登場する主人公のような生活をする人」というような意味合いが込められているらしい。この書籍を読み、改めて台湾文学の歴史を貫く言葉の一つが「アイデンティティ」であると感じた。原住民の口承文学から始まり、清朝時代の「古典」文学、白話字文学、日本統治時代の日本語文学、1920年代の「新文学」への挑戦(五四運動、「台湾文化協会」の影響)、戦後の日本語禁止、戒厳令下の元での言論封殺(と同時にモダニズム文学の隆盛)、葉石濤氏(台南の記念館に行ってきました、素晴らしかったです)などによる台湾文学の再定義、という複雑な台湾文学(歴史)の流れがこの一冊のお陰で明確になった。10年以内に二度も言語の禁制を経験するなど、想像を絶する苦しさを思った。作家にとって自分の表現媒体である言語が奪われるということがいかに辛かったことか。台湾文学の全体像を掴むのにお勧めの一冊です!


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