『人間の建設』小林秀雄 岡潔
日本を代表する批評家と数学者の異色の対談。思わず手に取った。
岡:人は極端になにかをやれば、必ず好きになるという性質をもっています。
小林:つまりやさしいことはつまらぬ、むずかしいことが面白いということが、だれにでもあります。
難しいから面白い、本当にその通りだと思う。外国語の習得然り、フランス現代思想然り、ロシア文学然り。一筋縄ではいかないからこそ面白さがある。
岡:本質は直感と情熱でしょう。勘は知力ですからね。それが働かないと、一切がはじまらぬ。それを表現なさるために苦労されるのでしょう。勘でさぐりあてたものを主観のなかで書いていくうちに、内容が流れる。それだけが文章であるはずなんです。
直感と情熱。何かこれだと思える直感、確信。直感で美しい文章と感じること。細かい理由はいらない。何故だかわからないが惹かれてしまう。誰かを好きになることもそうだ。具体的にここが好きだとは言えないかもしれないが、直感的に引き寄せられる。なんだかわからないがその人が好きなのだ。それこそが本物なのかもしれない。もっと自分の直感や感覚を大切にしなければ。
岡:文章を書くことなしには、思索を進めることはできません。書くから自分にもわかる。自分にさえわかればよいということで書きますが、やはり文章を書いているわけです。言葉で言いあらわすことなしには、人は長く思索できないのではないかと思います。
文字を書き起こす行為の重要性。物事を書くことによって思索を深めることができる。書くという行為が持つ力を最近よく考える。インプットだけではなくアウトプットが必要なのだ。
小林:いまは芭蕉の俳句だけ残っているので、これが名句だとかなんだとかみんな言っていますがね。しかし名句というものは、そこのところに、芭蕉に附き合ったひとだけにわかっている何か微妙なものがあるのじゃないかと私は思うのです。
この考えは眼から鱗だった。私たちはその作家のことを知っているからこそその人の書く文章というものが面白くなる。ということは、名作の魅力も分かっているようでいて、十全には分かっていないのかもしれない。
“Building a human being” by Hideo Kobayashi and Kiyoshi Oka
This book is a rare dialogue between Hideo Kobayashi, one of the most noted literary critics in Japan and Kiyoshi Oka, who is a genius mathematician.
According to Oka, the essence lies in intuition and passion. He believes in words, the expression by language. He says only by expressing in words can we deepen our thinking.
I found it intriguing partly because of this view being uttered by a mathematician, who I assumed usually uses formulas when thinking rather than in words. I tend to make light of the act of writing, while focusing on reading exclusively. Writing is something very powerful.
Among what Kobayashi said, one of the eye-openers is that we can appreciate the works by someone who we know personally. He gives an example of one of his friends, who composes haiku poetry as a hobby. Kobayashi found his haiku interesting despite its mediocre quality because he knew his personality. Appreciating someone’s works when we know about him or her differs significantly when we don’t. This observation has been thought provoking. The relationship between the creator and us could significantly change our impressions of their work.
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