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Ikuya Takahashi

『あにいもうと』室生犀星

授業で室生犀星の『あにいもうと』を扱った。何年か前に金沢の室生犀星記念館に行ったことがあるが、その入り口にあった有名な詩の一節を思い出す。「ふるさとは遠きにありて思うもの」。金沢の三文豪といえば泉鏡花、徳田秋聲、そして室生犀星である。


森茉莉は室生犀星の文章を次のように形容している。


「犀星の文章は吉田健一の文章とともに、なかなかわからなくて頭がくたびれるが、ことに犀星のわかりにくい文章は彼の小説のいうべからざる魅力だった。[…]とにかくこの二人のよくわからない文章は、わかるだけの文章よりも、すべてが明瞭しているとはいえないこの世の中のことを表現するのには適しているし、面白い。犀星の曲った悪い蛇のような表現はなんともいえなくよくて、悪い蛇のようでなくては犀星の文章ではないのだ。」

今回何度か作品を読み直して森茉莉氏が指摘していることが少しだけ分かったような気がした。すっと読める名文もあるが、くねくね曲がりくねっているからこそ、読者はそこで立ち止まり、もつれを解こうとする。そこに味わいが生まれるのであろう。


室生犀星は私生児として生まれ、7歳の時に住職の室生家の養子となった。生みの親には生涯会うことはなかった。詩人としてスタートしたが、佐藤春夫などから勧められ、小説家へと移行していく。『あにいもうと』は1935年に出版された犀星の代表作である。兄と妹、自然界と人間界、都会と田舎、エリートと人夫など、様々な対比が織り込められている。物語は父親、赤座が川で石工として仕事をしているところから始まり、その同じシーンで閉じる。感情の激発を伴う兄と妹のやりとりが中心であるが、その分父親の不在が際立つ。妹の兄に対する怒りの描写は文字通り戦慄を覚えた。強力な筆致で描かれている。言葉には言い表すことができない、行間に隠されている感情の機微をしっかり捉える必要がある。


一番印象に残ったのは父親の孤独、静けさであり、自然との融合であった。故郷の川や山をこよなく愛した作家室生犀星をもっと知りたくなった。

 

“Brother and Sister” by Saisei Muro


Saisei Muro was born in Kanazawa, Ishikawa prefecture. He started his literary career as a poet and later became a novelist.


The story revolves around the relationship between an elder brother and his younger sister. His love towards his sister is expressed through his dauntingly harsh words in a rather roundabout and twisted way. What impressed me was a juxtaposition of them being always emotional and intense to their father being detached and void of emotions. What has led him to such a state? Is he too old and tired to be involved in the troublesome life matters? Or is he just a typically alpha-male, macho type?


The more loudly the siblings quarrel with each other, the more the absence of the father comes to stand out. The story starts with him working in a river and ends with it, closing a full circle. Its structure reminds me of haiku, the art of montage. I’d like to quote one of Saisei’s poems about a river in his hometown. He was a beloved writer who cherished rivers and mountains and flowers.


“Sai River” The majestic river flows I live its side I sit on the embankment, grown with Spring flowers in the spring, summer flowers in the summer And find the grace and love of tenderhearted books The river still flows Pale waves ripple In the majestic breeze



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